【太田ステージとは?】
この記事ではBRIDGEの療育の根幹とも言える『太田ステージ』についてご説明します。30年以上の臨床心理士経験を持ち、太田ステージ研究会の会長代行を務め、太田ステージやASDに関する本も出されている武藤 直子(むとう なおこ)先生にお話をお伺いしました。
BRIDGEの療育を知る上で太田ステージの話はとても参考になると思いますので、ぜひ最後までお読みください。
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太田ステージのことを教えてください。
ASD(自閉スペクトラム症)の人には、つまずきやすい発達の節目があります。その節目をもとに太田ステージでは、今どの発達段階にいるのか、StageⅠ・Ⅱ・Ⅲ-1・Ⅲ-2・Ⅳ・Ⅴ以上の6つのステージに分けます。そのステージに合った療育を提供し、発達の節目を超えていくことを目指します。
ステージ分けというのは、IQテストや偏差値のように、平均からのズレを測るものではなく、誰かと比べて優劣をつけるためのものでもありません。あくまで一人ひとりの発達段階を知り、適切な働きかけを行うためのものであることを、保護者の皆さまには知っていただきたいと思います。
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太田ステージではどんなことがわかりますか?
太田ステージは、“シンボル機能”の発達段階によって、ステージ分けをします。“シンボル機能”という言葉を初めて聞いた方も多いと思いますが、簡単に言うと、シンボル(名前や記号など)を使いこなす能力のことです。
人は言葉や記号で、頭の中に共通のイメージを作ることができますよね。例えば、「机」と言ったら、似たような絵や使い方が思い浮かぶと思います。ですが、ASDの人はそもそもモノに名前があるということの理解が難しい場合があります。
他にも、例えば「果物」というのは、リンゴやバナナなどの総称であり、具体的な形はありません。そうした「見えない言葉」の理解が難しいのも、シンボル機能の障害による特徴です。
こうしたシンボル機能に障害があることで、人とのコミュニケーションが円滑にいかないことが多い、周りの人が当たり前にできることが苦手、といった問題に繋がってくるのです。
具体的に太田ステージでは、発達段階により以下のようにステージ分けを行います。
Stage Iは、物に名前があることが理解できていない段階
Stage IIは、物に名前があることが分かりかけている段階
Stage Ⅲ-1は、物に名前があることがハッキリと分かる段階
Stage Ⅲ-2は、比較(大小・長短など)ができる段階
Stage Ⅳは、空間関係(上下・左右など)が理解できる段階
StageⅤ以上は、それ以上の段階
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ステージ分けの評価の仕方を教えてください。
さまざまな評価用具を用います。具体的な方法などは本などには書いていますし、太田ステージ評価の手引きなども販売されていますが、評価の仕方をお話しするのは控えさせていただきます。というのも、評価の際にやってもらう課題自体は、練習をすればすぐに上手くなってしまうものも含まれているからです。先ほどもお話ししましたが、上のステージに行くことではなく、一人ひとりの発達段階を正しく知ることが大切なのです。
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具体的には、どんな療育をするのですか?
自分が現状持っている力よりも少し外側の課題を用意し反応をみながら取り組んでいきます。できることの円を少しずつ大きくしていくイメージですね。
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最後に、保護者の皆さまにメッセージをお願いします。
最近では、特別支援学校をはじめ、児童発達支援施設や放課後等デイサービスなど福祉の世界でも太田ステージが多く使われるようになってきました。感覚統合、バルシューレなど療育の様々な技法も、太田ステージを理解した上で実施するとより効果的なので、とても嬉しいことです。
ですが、太田ステージで自閉症が治るわけではありません。
太田ステージは、自閉症の特性や苦手なことを自分自身が理解し、受け入れる。その上で、自分のいいところを伸ばし、周りから受け入れられ、自分の能力を社会で発揮できるようにする。そして、楽しんで人生を送ってもらうことを目指していくためのものです。
発達障害の子たちは、周りの子たちが当たり前にできていることが、できなかったりします。そのため、それを注意され、自分自身でもなぜできないのか思い悩み、自分で自分を苦しめてしまう。心を病んでしまう人も少なくありません。ですが、自分の特性がわかれば、それに注意し自分に合った生活スタイルを送ることもできます。特性を活かした仕事を選び、苦手なことは周りの人の助けを借りることもできます。
太田ステージを通じて、自分のことを受け入れられるお子さんになっていってほしい。心からそう思っていますし、そのために私も活動を続けようと思います。