バルシューレは、ドイツ生まれの教育プログラムのこと。最近では子どもたちのスポーツに対する興味を引き出すための有効な手段として、日本でも注目を浴びています。今回は、バルシューレはどんな効果が期待できるのか、そして実際のプログラムについてもお話ししていきます。ぜひ、気軽にご覧いただいて、興味をお持ちいただければ嬉しいです。
バルシューレとは
バルシューレという言葉を初めて聞いた方も多いと思いますので、まずはバルシューレとはどういったものなのかをわかりやすくご説明していきます。
バルシューレの歴史・概要
Ball Schule(バルシューレ)とは、ボール遊びを通じて、運動能力の向上をはじめ社会生活で必要な力を育むプログラムのこと。ドイツ語ですが、英語に訳すとBall school(ボールの学校)という意味です。ドイツ・ハイデルベルク大学スポーツ科学研究所のロート教授によって1998年に作られました。
ボールを使った運動指導プログラム
バルシューレが大切にしているのは「自由にプレーさせる」「習う前にやってみる」こと。
子どもたちが楽しみながら様々なボールを使ったゲームに取り組むことで、運動機能はもちろん、自己肯定感の向上やコミュニケーション力を伸ばすといった効果が期待できます。
タレント発掘のプログラムにも用いられる
子どもたちの運動能力を向上させるためのプログラムだったバルシューレですが、現在では発達支援に用いられる他、タレント発掘プログラムにも使われています。
バルシューレのねらいや目標は?
子どもたちは走ったり、投げたり、バランスをとったり、さまざまな運動能力を遊びの中で向上させていきます。しかし、テレビゲームやさまざまなコンテンツの普及により、多くの子どもたちが運動不足に陥っていると言われています。
子どもの頃の運動習慣や体力レベルは、大人になってからの健康にも影響します。さらに認知的能力や心身の健康にも関係してきます。
子どもに運動の楽しさを知ってもらう
運動が重要と言っても、子どもたちが運動をしたい、という意欲がなければ続きませんし、無理にやらせようとして、逆に運動嫌いになってしまうこともあります。ですから、子どもたちが楽しさと達成感を感じられるような運動プログラムが必要です。
そうした点を満たしているのが、バルシューレ。子どもたちが楽しみながら、継続してさまざまな運動経験を積むことができるように考えて作られています。
ボールゲームやスポーツの入り口になる
バルシューレは、スポーツの導入として用いられることも多いです。1歳半頃〜小学生まで、発達段階に応じたプログラムが用意されています。さまざまなボールゲームを通じて、戦術・コーディネーション・技術の能力をバランスよく育むことができます。
バルシューレの5つの特徴
人生の中でも最も運動能力の発達において重要なのが、幼児期〜児童期であると言われています。また、この時期は脳が最も発達する時期でもあります。
この時期に、特定の競技だけを集中してやらせてしまうと運動のバリエーションが制限されてしまうため、運動能力の向上・脳の発達を考えると、幅広い運動を経験させることがとても重要です。
そうした中で、なぜ、バルシューレは子どもたちの成長に有効なのか、特徴を5つご紹介します。
特徴①科学的基礎づけのあるプログラム
バルシューレは、科学的背景を持った運動プログラムであり、子どもの発達段階に合わせてさまざまな運動が用意されています。
特徴②さまざまな運動やゲームが体験できる
バルシューレは、遊びとスポーツの間のようなものだとイメージいただければと思います。148種類を越えるボールゲームを通じて、さまざまな体の動きを経験することができ、幼児期〜児童期の発達を支えます。
特徴③運動未経験または苦手な子どもでも参加可能
運動が元々好きな子や得意な子はもちろん、運動に苦手意識を持っている子や、ほとんどボール運動をしたことがない子でも楽しく参加できます。先ほども触れましたが、スポーツへの入門編のようなものだと思ってください。バルシューレが最も大切にするのは、運動を好きになってもらうことです。
特徴④指導者が技術指導を行なわない
バルシューレでは、一般的なスポーツ教室のような技術指導はしません。それは、前述した「運動を好きになってもらう」ということにも繋がりますが、子どもたちに「学習している」意識を持たせないためです。
ボールゲームに取り組みながら、自分自身で考え、さまざまな知識やスキルを身に付けていくことを目指していきます。これは、潜在的学習と呼ばれるもので、自由にボールゲームをプレイさせることが、能力開発に役立つと言われています。
そのため、指導者は、子どもたちに具体的な指示を与えるのではなく、自分たちで解決できるレベルの課題が出てくるようにゲームを作っていきます。
特徴⑤周りの子と比較されず、一人ひとりをほめてもらえる
周りの他の子どもたちと比較をしないのも、一般的なスポーツ教室と違うことの一つです。一人ひとりの考えや成長を認め、積極的に褒める。そうすることで、子どもたちに「小さなできた」をたくさん経験させていきます。
バルシューレで育まれる4つの能力
バルシューレで育まれるのは「基礎的な運動能力」「自己肯定感」「集団におけるコミュニケーション能力」「多様な状況における対応力」の大きく4つの能力です。
ここでは、その4つについて詳しくご説明します。
能力①基礎的な運動能力
1つ目は、基礎的な運動能力です。バルシューレでは、148種類のボール運動を通じて、体のさまざまな部分の動かし方を学び、筋力や柔軟性などを伸ばすことができます。
また大前提として、「体を動かすことの楽しさを子どもたちに知ってもらう」ことが大切にされているプログラムです。楽しくボールゲームに打ち込んでいるうちに、自然と基礎運動能力が向上していくのが、バルシューレを受ける大きなメリットのひとつです。
能力②自己肯定感
2つ目は、自己肯定感です。バルシューレでは、他者と比較することなく、一人ひとりの考えやアイデアを大切にし、チャレンジを促していきます。また、それが成功したときには、その達成感を分かち合い、しっかりと褒めていきます。
そうすることで、子どもたちが自分の力を信じ、徐々に自己肯定感が芽生えていくのです。成功体験は、自分の可能性を信じさせてくれるものとなります。
こうして得られた自己肯定感は、将来の課題や難関に立ち向かう勇気になることでしょう。
能力③集団におけるコミュニケーション能力
3つ目は、コミュニケーション能力です。バルシューレでは、主にチーム対抗のプログラムが多く取り入れられており、チームワークが求められます。また、メンバー同士が話し合う時間もしっかりと設けられているため、コミュニケーションスキルを向上させることができます。自分の考えを他者に適切に伝えることは簡単ではありません。ですが、簡単でないからこそ、そういった経験をたくさんすることが大切です。
そうしたチームで行われる意見交換などを通じて、言葉で自分の思考を表現し、コミュニケーション能力を発展させることが期待できます。
能力④多様状況における対応力
4つ目は、対応力です。チームでの活動では、個々のメンバーが抱く考えが必ずしも一致しないことがあります。こうした場面では対話が欠かせません。そのため対話を通じて、他者の視点を理解しようとする柔軟性が身につきます。同時に、異なる意見や多様性を理解し、受け入れる力も養われます。
バルシューレの具体的なメニュー2選
ここでは、バルシューレの具体的なメニューを2つご紹介いたします。あくまでほんの一部ですが、こういったメニューがたくさんある、とイメージしていただければと思います。
ボール当て
1つ目は、ボール当てっこです。このゲームでは、2つのチームに分かれて行います。
1)まず、コーンを指定の場所に配置します。
2)次に、コーンを挟むように同じ距離に2本のラインを引き、その上に並びます。
3)合図がかかったら、20秒間の制限時間内でコーンに向かってボールを投げます。
4)最終的に、より多くのボールをコーンに当てたチームが勝利となります。
このゲームでは、狙った高さや距離に正確にボールを投げることを目指していきます。
みつならべ競争
2つ目は、みつならべ競争です。これも、ボール当てっこと同様に2つのチームに分かれて行います。各チームはボールを3つ持ってスタートします。
1)スタートラインから5〜10m離れた場所に、縦3つ横3つの計9個のフラフープを配置します。
2)各チームのメンバーは、ボールを1つ持ち、フラフープの中に置きに行きます。
3)ボールを置いたら走ってスタート地点に戻り、次のメンバーとハイタッチをしてバトンをパスします。
4)4回目以降は手元にボールがなくなるので、既に置いてあるボールを移動させます。
そして、縦・横・斜めのいずれかで、先にボールを3個並べたチームが勝利となります。チームでボールの色を分けると、よりわかりやすくゲームを進めていくことができます。
バルシューレがもたらす嬉しい効果|療育にもおすすめ!
最近では、バルシューレは療育(発達支援)にも取り入れられています。どのような効果が期待できるのかをご紹介いたします。
体内時計が形成される
バルシューレがもたらす良い影響の一つが、体内時計の調整です。人間は体内時計により、夜には眠り、朝には目を覚ますように調整されます。近年、発達障害の子どもが増加していますが、その原因の一部が睡眠不足にあるとも指摘されています。この睡眠不足の背後には、体内時計の正確な調整が難しいということが原因の一つと考えられています。そこでバルシューレによって昼間や夕方に体を動かし、3度の食事を規則正しく取ることで、体内時計の調整ができるようになります。
自発性や情緒の安定が促される
軽度の発達障害や知的障害を抱える子どもたちにもおすすめです。ここでは自ら考え、他者と意見を交換する機会が豊富にあります。その結果、自発的にチャレンジする態度や自分の気持ちや考えを表現できるようになることが期待でき、これが情緒の安定にも繋がります。
バルシューレの指導者は発達障害や知的障害に関して専門的な知識を持っているわけではありません。そのため、症状が重度である場合には課題が生じる可能性があります。しかしながら、症状が軽度の場合には、子どもたちにとって、外部との良い接点となり、刺激を提供する素晴らしい機会となります。
体験・経験のなかから適性が見えてくる
「好き」や「得意」のきっかけ作りになるのがバルシューレです。自由な発想や工夫を大切にし、さまざまなプログラムに取り組む中で、子どもたち一人ひとりの適性を見つけていくことを目指します。
まとめ
これまでバルシューレについて紹介してきましたが、いかがでしょうか。バルシューレは子どもたちに対してスポーツを押し付けるのではなく、むしろ体を動かすことに対する苦手意識を自然に克服させる場となります。それに加えて、成功体験を積み重ねることで、子どもたちは自己肯定感を高めることができます。つまり、バルシューレは単なる運動の好みを変えるだけでなく、人間としての成長を促進するプログラムなのです。ご興味のある方は、お近くでバルシューレ教室をやっているところもあると思いますので、一度体験などに参加してみるのをおすすめします。
株式会社ダンデライオンでは、子どもたちの可能性を広げる架け橋となることを目指した療育施設「BRIDGE(ブリッジ)」を千葉県内で9施設展開しています。
「子どもたちへの可能性を導く架け橋となる」を理念に掲げ、子どもたち一人ひとりの可能性を引き出すために、家族や社会とのつながりを大切にしています。
言語聴覚士、臨床心理士、公認心理師、作業療法士、理学療法士、保育士など多様な資格を持つ指導員が全国の特別支援学校や療育施設で実践されている療育技法「太田ステージ」に基づいた指導を行っています。
教室までお越し頂ければ、子どもたち一人ひとりに合わせたプログラムや療育の様子をご覧いただけます。BRIDGEへ、ぜひ1度ご見学にいらしてください!